2006年08月02日

●月館の殺人

下巻が出るまで1ヶ月!
長かったですが、待った甲斐はありました。
上巻を読んだときには、コレ上下館構成じゃないな、間に「中」が入るなあと思っていたのですが、きちんと終わりました。さすが(笑)。

さて、作品としては、「新本格」の旗手、綾辻行人と、独特のテンポがある漫画家、佐々木倫子のコラボレーション。
掲載誌「IKKI」は、コラボを聞いて初めて知った雑誌で、なおかつ、その後、見つけるまでに1ヶ月以上かかったといういわくの(笑)雑誌。いや、地方なので雑誌の配本数とかが少ないんでしょうけど。

 ストーリーは「推理もの」ということで、軽く触る程度で。
 ネタバレもしませんのでご安心を。

上巻を読んだ感想は、うわー、佐々木さんの勝ちだ!
綾辻さんは、好きな作家の一人です。
個人的な印象は、トリックのためにストーリーを作り、ストーリーのためにキャラクターを配置する小説。
殺人の理由は明確にされていて、その理由を裏付ける人格作りも万全なので、破綻は無いです。そのために、とってもとってもとっても遅筆な作家さんだと思いますが…。
(小説のマイベストは「十角館の殺人」)
佐々木さんも、好きな作家の一人です。
あの独特なテンポ。
動きのある構成の直後に、ふっと息を抜いたり、すっとアタマを冷やしてくれる展開を入れられる巧さがあると思います。
がーっと走ってぴたっと止まって、振り返って独り言を言ってみたりするイメージかなあ。

そんな二人の組み合わせ、どうするんだろうと思いました。

字と絵なら、視覚的イメージも含めて、画の勝ちだわ……。
きりきりと、小さな螺子を組み合わせては緩まないように締めていく原作を、良い意味での大雑把さでまとめているので、暗くなりすぎなくて済むのです。
パズルはある程度ピースを積み上げないと全体像が見えない。今読んでいる情報がどこに嵌まるのかわからなくて、どんどん内に入っていくようなフシのある作品が、時折入ってくる「立ち止まって独り言」のタイミングで息を吐けるので、重くなりすぎないのです(本は重いですが。紙質がいいので・笑)。

そして、アヤツジの館シリーズ!と見せかけて(いや、最後まで読めば紛れもなく館シリーズです)、いきなり鉄道の話です。しかもコア。いわゆるテツ(鉄道オタク)の話ですし。
最後まで読めば、はー、と思います。そうきたか、そうまとめるか、と。
破綻がないのがすばらしい。緻密に積んでいく原作と、ストーリーはうまく大雑把ながら、作画は精緻な佐々木さんならでは。

綾辻さんが以前、有栖川有栖さんと手がけたTV「安楽椅子探偵」シリーズ(関西ローカル)を連想します。
映像ならではのトリックを使っていてあのときも「くそう!」と思ったのですが。
(たとえばAさんがBさんのふりをして、Cさんと会話をしているとき、会話の中では、AはBと名乗ることができるし、CもAにむかって(Bだと勘違いしているので)、Bと呼びかけることができる。でも、地の文では、Aのことを決してBとは書けないのです。ごくまれにそういうことやっちゃってる作家さんいますが、それは禁じ手。いわゆる力量不足ですよね。どうしてもそうしたいなら、一人称で書くしかないと思います)
漫画の世界でもそうです。
漫画だから、回想で犯人の手がかりなんかを思い出したときも、より鮮明にわかるし、嘘がないこともわかる。漫画だったら、「嘘」をつかなくてもいいんですよね。書かなければ良いのです。誰だかはっきりさせたくないときは、背中だけ書くこともできる。
でも、やっぱりさすがコラボ!と思ったのは、佐々木さんの「立ち止まって一呼吸」にうまく手がかりを埋もれさせていたこと。その「一呼吸」があまりに自然すぎて、気づかなくて、下巻が出る前に何度も読み返したのだけれど、全然気づかなかったのです。くやしい(苦笑)。小説だと、ちらっとくらいは心に引っかかるものを感じるのだけれど…漫画ならではの情報量の多さに負けました。(苦笑)

下巻はカラーあり、最終話はなぜか灰色の紙だったり、最後の黒の見返しページに呪いのように(笑)主人公のアップが黒で印刷してあったり、綾辻さんの後書きが、やはり黒地に黒インクで書かれていたり、いろいろ手がかかっていてクスリと思わせるものがあります。

上下巻でものすごく充足感を感じますが、できれば、下巻に入ってからのハイスピードな展開や、下巻に散りばめられた「なるほど!」感……上巻のときに、よくわからん設定だなあと思わせた数々のエピソードの種明かしに、より大きな満足を得るために、まとめ買いよりも上巻だけ買って、次の日に下巻を…という手間がけを推奨します。(いや、同時に買うと絶対我慢できないので)

オススメ度はトリプルAかな。待たされた期待度がプラスされているかも。

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